クレーム対応で信頼を深める医院になる
2025/11/25

患者さんからのクレーム対応――それは多くの医院が頭を悩ませるテーマのひとつです。どんなに丁寧に診療を行っていても、「待ち時間が長い」「説明が分かりづらい」などの声が寄せられることは避けられません。
けれども、クレームは決して「マイナスな出来事」ではありません。むしろ、医院がより良くなるための貴重なヒントであり、信頼関係を深めるチャンスでもあります。
本記事では、医院運営者の視点から「クレーム対応を通して信頼を高める」ための考え方と具体的な対応のポイントを紹介します。誠実な姿勢で向き合うことが、結果として患者さんに安心感を与え、地域で長く愛される医院づくりにつながります。
クレームは「医院を良くしたい」という声
まず知っておきたいのは、クレームは「敵意」ではなく「期待」の裏返しだということです。
本当に不満しかない人は、何も言わずに二度と来院しません。
あえて声を上げてくれるということは、「この医院にもっと良くなってほしい」「分かってもらいたい」という気持ちの表れです。
特に地域に根ざしたクリニックの場合、患者さんとの関係は長く続くもの。
だからこそ、クレームを単なる「トラブル」として処理するのではなく、「改善のヒント」として前向きに捉えることが大切です。
まずは「聴く」ことから始める
クレームを受けた際、もっとも大切なのは“反論せずに聴く”姿勢です。
患者さんが不満を伝えるとき、求めているのは必ずしも「説明」や「言い訳」ではありません。
まずは「気持ちを理解してもらいたい」という思いが先にあります。
たとえば、
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。詳しくお話を聞かせていただけますか?」
と一言添えるだけで、相手の感情は大きく和らぎます。
聴く姿勢が伝われば、患者さんの怒りの温度も自然と下がります。
逆に、途中で遮ったり「それは仕方がないんですよ」と説明から入ったりすると、かえって不信感を招いてしまいます。
“まずは最後まで聴く”。それが信頼回復の第一歩です。
スタッフ任せにせず、医院全体で共有する
クレーム対応がうまくいかない医院の多くは、対応を“個人”の問題にしてしまっているケースが多く見られます。
受付スタッフが対応し、現場でなんとか収めたあと、「もう済んだこと」として終わらせてしまう——これは非常にもったいないことです。
クレームは「医院全体の課題」を映す鏡でもあります。
一人のスタッフが注意を受けたように見えても、実際はシステムや動線、説明方法など、医院全体の仕組みに原因があることが少なくありません。
たとえば、
- 受付が混み合う時間帯にスタッフ数が足りていない
- 診療の説明書きが専門的すぎて理解されにくい
- 案内サインが小さく、初診の患者さんが迷いやすい
こうした“構造的な原因”を見逃すと、同じクレームが何度も繰り返されます。
対応の記録を共有し、院内ミーティングで「なぜ起きたのか」「どう防げるか」を話し合うことが重要です。
このプロセスが、医院の成長とチーム力の向上につながります。
「謝る」ことは「非を認める」ことではない
クレーム対応の中で難しいと感じるのが、「謝罪」のタイミングです。
とくに経営者の立場から見ると、「こちらに落ち度がないのに謝るのはおかしい」と感じる場面もあるでしょう。
しかし、「申し訳ありません」は「過失を認めます」という意味ではなく、「不快な思いをさせてしまったことに対する気遣いの表現」です。
法律的にも、感情的にも、謝ることと責任を認めることは別の話です。
たとえば、
「ご不便をおかけしてしまい申し訳ありません」
「お気持ちを伺えて良かったです。教えていただきありがとうございます」
このような言葉は、相手の気持ちを尊重しつつ、対話を円滑に進めるための潤滑油になります。
丁寧な言葉をかけることで、「この医院はきちんと向き合ってくれる」という印象を与えられます。
クレーム対応は「スタッフ教育のチャンス」
クレームを受けた時に、その対応を“スタッフ教育の機会”として活かすことも大切です。
実際の事例を共有しながら、「こういう時はどうすれば良かったか」「今後どう改善できるか」を話し合うことで、対応力は格段に上がります。
また、院長や責任者が率先してフォローする姿勢を見せることで、スタッフの安心感も生まれます。
「自分一人で抱え込まなくていい」と感じられる環境があれば、クレーム対応への恐怖心も薄れていきます。
結果として、患者さんへの応対も自然に柔らかくなり、医院全体の雰囲気が良くなっていくのです。
対応の“あと”が信頼を決める
クレームを受けたあとは、「改善しました」というアクションをしっかり示すことが大切です。
たとえば、
- 案内表示を見直した
- 説明用のリーフレットを追加した
- 受付の混雑を避けるため、予約時間を再調整した
など、何か一つでも「具体的な改善」を伝えることで、患者さんの印象は大きく変わります。
「前回の件、改善してくださったんですね」と気づいてもらえたとき、信頼はぐっと深まります。
この「改善の見える化」が、医院のファンを増やす重要なポイントです。
ネット上の口コミにも誠実に向き合う
最近では、GoogleマップやSNSなど、オンライン上で医院の評価が見られる時代です。
悪意のある書き込みは別として、内容に一定の根拠がある口コミには、誠実な対応を心がけましょう。
感情的に反論するのではなく、
「貴重なご意見をありがとうございます。今後の改善に役立ててまいります。」
といった一文で十分です。
一見形式的な返信でも、「誠実に対応している医院」という印象を多くの人に与えます。
口コミ対応は、いわば“オンライン上のクレーム対応”。
リアルの現場と同じように、冷静に、そして真摯に対応する姿勢が大切です。
まとめ
クレーム対応は、単に“火消し”をするための作業ではありません。
患者さんの声に耳を傾け、医院の課題を見つめ直すチャンスです。
誠実な対応を続けることで、「この医院は信頼できる」「安心して相談できる」と感じてもらえるようになります。
結果的に、それが口コミや紹介につながり、医院の成長を支える土台にもなるのです。
クレームは、医院の“鏡”。
避けるのではなく、しっかり向き合うことで、より強く、より信頼される医院へと成長していけるはずです。