情報漏えいを防ぐためのスタッフ教育
2026/11/02

「知らなかった」では守れない。医院全体で取り組む情報管理
医療機関では、患者さんの氏名や住所、連絡先だけでなく、診療内容や検査結果、服薬情報など、取り扱いに十分な配慮が必要な情報を日々扱っています。
そのため、「情報漏えいを防ぐ」というと、パスワード管理やセキュリティソフトなど、システム面の対策を思い浮かべる方も多いでしょう。
もちろん、これらの対策はとても重要です。
しかし、実際の情報管理では、スタッフ一人ひとりの日常的な行動も大きな意味を持ちます。
- このくらいなら大丈夫だろう
- 忙しかったので確認せずに送ってしまった
- 院内のことだから問題ないと思った
こうした小さな判断が、思わぬ情報漏えいにつながることがあります。
だからこそ、情報漏えい対策は「システムを強化すること」だけではなく、スタッフ全員が情報を守る意識を持てる環境をつくることが大切です。
今回は、医院運営の立場から考えたい「情報漏えいを防ぐためのスタッフ教育」について、日々の業務に取り入れやすいポイントをご紹介します。
情報漏えいは「特別な事故」だけではない
情報漏えいというと、外部からのサイバー攻撃や大規模な不正アクセスをイメージしがちです。
しかし、医院で注意したいのは、もっと身近なところで起こる情報管理上のミスです。
- メールの宛先を間違えて送信してしまう
- 患者さんの書類を別の人に渡してしまう
- 印刷した資料をプリンターに置き忘れる
- パソコンの画面を表示したまま席を離れる
- 共有アカウントのパスワードを複数人で使い回す
- 患者さんについて院外で話してしまう
- SNSに院内の写真を掲載する際、背景に患者さんの情報が写り込む
たとえば、こんな場面に注意
一つひとつは「うっかり」で起こり得るものです。
だからこそ、スタッフに対して「絶対にミスをしないように」と求めるだけでは十分ではありません。
ミスが起こりやすい場面をあらかじめ共有し、どう行動すればよいかを具体的に伝えることが重要です。
スタッフ教育で大切なのは「禁止」だけにしないこと
情報管理の研修では、「これはやってはいけません」という禁止事項が中心になりがちです。
もちろんルールを明確にすることは大切ですが、それだけでは現場で迷ったときに判断できません。
「なぜダメなのか」まで伝える
たとえば、「患者情報を私物のスマートフォンに保存しない」というルールだけを伝えるのではなく、「紛失や盗難、第三者への誤送信などによって、患者さんの情報が外部に流出する可能性があるため」と理由まで説明します。
理由が分かれば、スタッフ自身が別の場面でも考えて行動できるようになります。
ルールを覚えてもらうことより、情報を守る考え方を身につけてもらうこと。
これがスタッフ教育の大きなポイントです。
「個人情報」と「医院の情報」を分けて考えない
情報漏えい対策では、患者さんの個人情報だけに目が向きがちです。
しかし、医院が守るべき情報はそれだけではありません。
- 患者さんの個人情報
- 診療に関する情報
- スタッフの個人情報
- 給与や労務に関する情報
- 取引先の情報あ
- 医院の経営情報
- WebサイトやSNSの管理情報
- 各種システムのID・パスワード
医院にはさまざまな重要情報がある
たとえば、
などがあります。
「患者情報ではないから問題ない」と考えるのではなく、医院が管理している情報は、それぞれ重要な資産であるという認識を共有しておくことが大切です。
メール・LINE・SNSは特に注意したいポイント
日常業務で便利になった一方、情報の取り扱いには注意が必要なのが、メールやSNSなどのデジタルツールです。
- 宛先は合っているか
- 添付ファイルは間違っていないか
- 本文に不要な個人情報が入っていないか
- CCとBCCを間違えていないか
「送る前に一度確認する」を習慣にする
メールを送る際には、
などを確認します。
特に患者さんの情報を含む場合は、送信前の確認を習慣化することが大切です。
「急いでいたから」という理由で確認を省略しないよう、医院として一定のルールを決めておくと安心です。
- 患者さんのことを投稿しない
- 院内の写真を掲載する際は十分確認する
- 患者さんが特定できる内容を書かない
SNSは「医院の中だけの話」ではない
スタッフが個人のSNSを利用することも珍しくありません。
だからこそ、
など、SNS利用についても基本的な考え方を共有しておきましょう。
悪意がなくても、投稿した写真や文章から患者さんや医院が特定される可能性があります。
パスワード管理も「スタッフ教育」の一部
セキュリティ対策というと、専門的な設定を思い浮かべるかもしれません。
しかし、まず取り組みたいのは、スタッフが日常的に行うパスワード管理です。
- 個人ごとのアカウントを用意する
- パスワードを共有しない
- 退職者のアカウントを放置しない
- 必要以上の権限を与えない
- 多要素認証など利用可能な安全対策を活用する
パスワードの使い回しを避ける
複数のサービスで同じパスワードを使用していると、一つのサービスから情報が漏れた場合、別のサービスまで不正利用されるリスクがあります。
医院で使用するシステムについては、可能な範囲で、
といった基本的な管理を行いましょう。
「退職時」の情報管理も忘れない
情報漏えい対策では、在職中のスタッフ教育に目が向きがちですが、退職時の管理も重要です。
アカウントやアクセス権を整理する
退職したスタッフが、医院のWebサイトやクラウドサービス、メールなどにアクセスできる状態になっていないか確認します。
特に、個人のメールアドレスや個人端末を使って医院のシステムにアクセスしていた場合は、退職時に確認すべき項目をあらかじめ決めておくと安心です。
「退職したら何を確認するか」をチェックリストにしておくと、担当者が変わっても対応しやすくなります。
スタッフが「相談しやすい環境」をつくる
情報漏えい対策で意外と重要なのが、ミスを報告しやすい雰囲気です。
たとえば、メールを間違えて送信してしまったとき。
「怒られるから黙っておこう」
という空気があると、発見や対応が遅れてしまう可能性があります。
- おかしいと思ったらすぐ報告する
- 間違えたかもしれないと思ったら、まず責任者に相談する
ミスを隠さないことが最優先
もちろん、ミスそのものを減らすことは重要です。
しかし、どれだけ注意していても、人が作業する以上、ミスを完全になくすことは簡単ではありません。
だからこそ、
というルールを明確にしておきましょう。
早い段階で共有できれば、状況確認や必要な対応も早く行えます。
年に一度だけではなく「短時間で繰り返す」
情報セキュリティの研修は、年に一度だけ実施して終わりにするよりも、短い時間で繰り返し確認するほうが、日常の意識につながりやすくなります。
- 今月はメールの誤送信について
- 今回はSNSの情報管理について
- 次回はパスワード管理について
5分・10分のミニ研修でも十分
たとえば月に一度、
というように、一つのテーマだけを取り上げます。
長時間の研修を行わなくても、スタッフ全員で定期的に確認するだけで、情報管理への意識を保ちやすくなります。
実際の「ヒヤリ・ハット」を教材にする
スタッフ教育をより実践的にするなら、医院内で実際に起きた「ヒヤリ・ハット」を活用するのがおすすめです。
- 患者さんの書類を別の方に渡しそうになった
- メールの宛先を間違えそうになった
- 院内の写真に個人情報が写り込んでいた
- なぜ起きたのか
- どうすれば防げたのか
- 同じことが起きたらどうするか
「もし自分だったら」を考えてもらう
たとえば、
といった事例があれば、それを匿名化してスタッフ間で共有します。
をみんなで考えることで、単なる注意喚起ではなく、実際の行動につながる学びになります。
情報漏えい対策は「スタッフを疑うこと」ではない
情報管理を厳しくすると、「スタッフを信用していないように感じられるのでは?」と心配する院長もいるかもしれません。
しかし、本来の目的はスタッフを疑うことではありません。
誰か一人の注意力に頼らなくても、安全に情報を扱える仕組みをつくることです。
- 確認する場所を決める
- チェックリストを用意する
- 個人ごとのアカウントを使う
- アクセス権を整理する
- 迷ったときの相談先を決める
「気をつけてください」だけではなく、
といった仕組みを整えておけば、スタッフに過度な負担をかけずに情報を守ることができます。
院長・運営者がまず確認したい5つのポイント
最後に、医院の情報管理を見直す際に確認しておきたいポイントをまとめます。
●CHECK 1
スタッフ全員が「何を守るべきか」を理解していますか?
●CHECK 2
メール・SNS・クラウドサービスの利用ルールは決まっていますか?
●CHECK 3
スタッフ個人のアカウントや権限を適切に管理できていますか?
●CHECK 4
ミスや不安をすぐに報告できる環境になっていますか?
●CHECK 5
退職者のアカウントやアクセス権を確実に整理していますか?
すべてを一度に完璧にする必要はありません。
まずは「今の医院で、情報が漏れてしまう可能性がある場所はどこだろう?」と考えるところから始めてみましょう。
まとめ
情報を守るのは「仕組み」と「人」
情報漏えい対策というと、セキュリティソフトやシステムの強化に目が向きがちです。
しかし、医院の日々の業務を支えているのは、そこで働くスタッフです。
だからこそ、スタッフ一人ひとりが「情報を守ることは、患者さんとの信頼を守ること」だと理解することが大切です。
難しいセキュリティ対策を一度にすべて導入する必要はありません。
- 送信前に確認する
- 迷ったら相談する
- ミスをしたらすぐ報告する
情報管理は、一度ルールを作れば終わりというものではありません。
スタッフ全員で繰り返し確認し、医院の日常業務の中に自然に根付かせていく。
その積み重ねが、患者さんからの信頼を守り、安心して通える医院づくりにつながっていくのではないでしょうか。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。